忍びとは耐え忍ぶ者である。

現代版忍び電気屋の日常

僕は、電気屋さんなので、仕事の都合で床下に潜ったり、天井裏に潜ったりする。

電気屋の仕事はさながら現代版忍者のようである。

 

忍者といえば聞こえは良いが、そういった場所には虫が住んでいるのだ。

天井裏や床下では見た事もないような虫に遭遇する事もある。

例えば、大きさは米粒大ぐらいで、形は長細く、全体は黒光りしていて足が体の大きさに比べて異常に長い「変な虫」が肩や足に付くことだってある。

 

そんな時でも「あ、この人電気屋なのに虫が苦手なんだ。だから仕事が遅いんだ」

という使えない電気屋のレッテルを張られたく無いが為に、叫びたい声を押し殺して天井裏で忍のごとく仕事を続けるわけだ。

 

現代版忍者の電気屋とは虫の怖さを克服した者ではないかと僕は思う。

近年の研究では、忍びは身体能力に優れ、厳しい規律に律された諜報集団という面の他に優れた動植物の知識、化学の知識を持つ技術者集団であったとされているのだ。

正に、「現代の忍」とは電気屋さんの事ではないだろうか。

 

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僕は、虫が嫌いだ。

虫が嫌い

小学生の頃は自由研究でカブトムシやクワガタなどの昆虫に触れることもあったが何故か、ある時から急に虫が嫌いになったのだ。

 

なぜ、突然虫が嫌いになったのか考えてみた。僕は基本ビビりである。

町を歩いていても突然知り合いから声をかけられると心臓が飛び出そうになるくらいに驚いてしまう。

 

驚いた時に僕は極力声を出さないように驚くようにしている。

なぜなら「あ、この人ビビりなんだ。」と思われたくないからである。

心の中では「ぎゃぁぁっぁぁ!」叫んでいるわけだが、極力平静を装いながらも

「お、おう。久しぶり」なんて冷静な対応をするように心がけているのである

忍びとは耐え忍ぶもの

忍びとは耐え忍ぶ者

そんな僕が、ある日エアコンの依頼を受けた。特段珍しいことではない。

エアコン取付工事と言うのは電気屋の仕事の割合で言えばかなり高い部類である。

いわば、メジャーな仕事なのだ。

エアコン工事が一人で出来て初めて電気屋として認めてもらえるような所がある。

 

僕は、「認められてる電気屋」の部類なので当然一人で工事をするわけだが

何事もなく進むこともあれば、工事中に何かトラブルが起こる時だってある。

 

今回の依頼のあったお客さん曰く、

「部屋にいると夜中にエアコンから虫の羽の音がして気になるのでみて欲しい」という内容だ。

 

「出た!虫案件!見たくない!」

 

心の中では断りたい一心であるが、断る為の正当な理由が無い

頭の中をフル回転させて、なんとかお断り出来ないものだろうかと考えてみる。

 

  1. 仕事が立て込んでいる → 全然ヒマ。むしろ仕事欲しい
  2. 虫の案件は断りたい → 「虫嫌いの電気屋のレッテルを張られたくはない」
  3. 外注業者に依頼するように促す → エアコンは電化製品なので故障の可能性がある以上一度見なくてはいけない

 

おそらく時間としては「2秒」

その僅かな時間の間に僕の頭の中で脳内会議が開かれた。

 

「断れない」

 

脳内会議の結果は僕にとって一番残酷な結果が出た。

 

忍びの世界では、脱走者「いわゆる抜け忍」に対して厳しく、探し出して処罰されてしまうのだ。

上司である大名や殿様の依頼は絶対なのである。

たとえ火の中、水の中とはいえ

例え火の中水の中

——依頼当日

 

 

「こんにちわ~」と極力相手に恐怖を悟られないように、僕はかなり明るめのあいさつで依頼主のお宅へ訪問した

 

部屋に案内されて僕は驚愕した。

 

部屋にハチが飛んでいるのだ!

 

「いやいやいや、無理無理無理!」話が違うでゴザル。

 

羽の音がしたとは聞いてたけど、がっつり姿見えてるじゃん!原因解ってるじゃん

 

しかし、僕は忍びである。

そんな事はみじんも見せずにゆっくりと、依頼主に話しかける。

 

「ハチが、飛んでますね」

 

もう少し語彙力があれば良かったのだが、内心パニック寸前なのだ。

だってハチが飛んでる。

ハチが飛ぶのはお池の周りって子供の頃に聞いてた

 

逃げ出したい気持ちは十二分にあったが、逃げたら脱走とみなされ、厳しい処罰が待っている。

忍びの世界は抜け忍に厳しいのだ。

冷静に頭を回転させ、一つの結論に至った。

 

「ハチジェット買ってきます」

 

僕は今までの人生経験の中からベストな答えを探し出したのだ。

 

すぐさま、最寄りのホームセンターに車を走らせた。

到着するなり一目散に害虫コーナーへ向かう。

どうやら、ハチにもいろいろな種類が居るらしい。

スズメバチは凶悪で下手すると命の危険にもかかわってくる。

エアコンの点検から、急に命がけのミッションに変わっているのだ。

バズーカ型の殺虫剤なんてのもあった。

こうなれば最早、ハチと僕との戦争である。

なるべく強力な殺虫効果が期待できる殺虫剤を選んで2本買った

なぜならば、撃ち洩らしがあった際に逆に「打ち取られる危険」があったからだ!

 

早歩きで会計を済ませ、依頼者の家に到着する。

依頼者を一目見て彼が臨戦態勢に入ってることを瞬時に理解した。

座布団で顔を覆い、アースゴキジェットを片手に持ち、もう片方の手はゴム手袋のフル装備である。

 

対して僕は「アースジェット両刀装備」のみである。

一抹の不安を覚えたが、ここまで来たらやるしかない。戦争なのだ。

「危ないので下がっていてください」

万が一依頼者が刺されないように別室にこもり、扉を閉めてもらった。

「けっして僕が声をかけるまで扉を開けてはダメですよ」と。

声をかけ部屋に突入した。

 

「ぶしゃーーーー!!!」

 

部屋に入るや否やの奇襲攻撃である。

こちらもパニック寸前だが、向こうサイドも突然の煙幕に驚いたようで、すごい勢いで飛び回る。

 

「おんどりゃぁぁっぁっぁああ!」 全力で部屋からダッシュで逃げる僕。

 

部屋から追っかけてくるハチの集団。

今度は庭でのゲリラ戦だ。

走り回りながらの振りむきざまのアースジェット攻撃。

そして、隙あらば依頼者の家に立てこもる。

 

そんな事を繰り返すこと20分。

アースジェットの効果が出始めたのか段々と動きが鈍ってくるハチ達。

追手が来ない事を用心して確認しつつ、部屋に再突入する。

部屋の中は死の煙幕で覆われていた。

空気を換気しなくては、とてもじゃないが、作業できる状態ではない。

僕は急いで窓を開けた。

暫くすると煙幕が薄れてきて部屋の中が見えてきた。

部屋に転がるハチの死骸と、かすかに聞こえる羽の音。

恐る恐る部屋の中を確認していくと、エアコンの中からその音は聞こえてきた

 

完全に安全を確かめるには内部の確認が必要不可欠だ。

エアコンの内部は前のカバーを外さないと確認ができない。

しかし、ここでも不安がある。

 

「もし、生き残りが最後の力を振り絞って差し違えを狙ってきたら」

 

そう考えるとカバーに手をかけるのが恐ろしくなった。

 

僕は、残ったアースジェットをエアコンの吹き出し口から流し込んだ。

先手必勝だ。

後続の護衛が到着するまで待っていては遅いのだ。

 

「期は来たり!今こそ攻めるべきぞ!」

 

「うぉぉぉ!」とキングダムに影響を受けつつもアースジェットを吹きかける。

 

 

なんやかんやあって、カバーを開けた。

 

エアコンのカバー

お判りいただけたでしょうか?

画面中央にハチが鎮座しております。

中には、やっぱりハチの死骸がありました。

怖いのでピンセットで確保していく。

動かないと解っていても怖い物は怖いのだ。

ハチの亡骸

ハチの亡骸

 

ハチ侵入の原因を考える

 

ハチの侵入経路はエアコンの配管穴の隙間が原因だった。

通常なら虫が入ったり、雨水が入らないようにパテ(粘土みたいな物)で穴を塞いであるのだがココのお宅は完全にふさがっておらず、隙間が出来ていた。

 

なぜ隙間が出来たのだろうか。依頼者は最近引っ越してきて、こちらの物件に住むことになった。その間にメンテナンスがされておらず、隙間が出来てる事に不動産屋も気がつけなかった。その為、寒くなって来たのでハチが暖をとりに侵入してきていたのだ。

パテはきちんと埋めようと心に強く刻んだ。

 

冬場のハチ補足説明

冬場のハチは餌が少なくなってくているので夏に比べて凶暴らしい。

この情報を聞いて心底恐ろしくなった。

電気屋とは日々、耐え忍ぶ者なのである。

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